世界拳闘紀行 第十四回 ベネズエラ

WORLD BOXING JOURNEY

文:コビトロック
イラスト:kimura

コーヒー?美人?

第14回はベネズエラでごぜえやす。ベネズエラのイメージって?コーヒー豆!それと、美人が多い国!!ミスユニバース優勝回数はアメリカに次ぐ7名、ミスインターナショナルは一位の7名、その他ミスコン荒らしまくり国。
なんで?それはベネズエラは国策として税金使って美人の育成に力を入れているからだよ。国立のモデル養成学校・エステ学校があるのだ。それで美人を名産品として観光客を誘致しているのだよ。という嘘みたいな本当の話。(本当?信頼出来るソースまでは裏取ってない、気になったら調べてね)。

治安悪い?

後はね、治安が悪いイメージ。首都カラカスは南アフリカのヨハネスブルグと並んで悪名高い。事実カラカスは東京の510倍(!)強盗が多いらしい。行った事ないからイメージですけど、海外慣れしてないしサバイバル能力低い自分は行ったら当日に殺られる自信ある。
しかし後述しますが、実際ボクサーも被害にあってるし、ある意味深刻な問題ではあるのよね。
て長め前置きはこれくらいにしてボクサーの話をば。

体格が近いからか軽量級選手多く、昔から日本と縁が深い

そんなベネズエラは昔から日本人選手との対戦が多い国。でも日本より貧しいからしょっちゅう日本に来てくれるイメージ。
まず、1968年のメキシコ五輪でライトフライ級で金メダルを獲得したフランシシコ・ロドリゲスが目につく。全競技通してベネズエラ初の金メダリスト。高山・井岡・中谷と熱戦を繰り広げたフランシシコ・ロドリゲスJr.は…別に息子ではない(メキシカンだし)。
初のプロ王者は1971年9月に小林弘から王座を奪った、アルフレッド・マルカノ。試合は小林がポイントをリードするも10回に逆転KO勝利。この試合はリングマガジンのアップセット・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。

153cm、体は小さいがパンチはダイナマイト

その後もベネズエラと日本の対戦は続くが、個人的に印象深いのは最軽量級から4階級を制覇した小さな巨人、レオ・ガメス。もう名前が強そう。ライオンとガメラ!みたいな。当時WBA本部があるベネズエラの選手だから贔屓にされてた。とか言われもしたけど。
まずストロー級王者時代に防衛戦で横沢健二と。これ一方的過ぎて「日本人世界戦最悪ミスマッチ」とか言われるけど、う〜んそう言われて仕方がない。てかガメスが強過ぎた。2回に決まったアッパーで横澤の前歯が下唇を貫通したとか、折れた歯がガメスのグローブに刺さってた。とか言われている。3ラウンドで終わった惨劇…

もっと評価されも良くない?

階級を上げて柳明佑に2度挑むも両方判定負け。その後、金容江にも敗戦。終わった?イメージあったので、日本の八尋とライトフライ級王座決定戦を行った際は八尋有利予想多かった。がフタを開ければ手数も有効打も圧倒し9回TKOで2階級制覇。破壊力が全然違った。小さいけどリーチ長いし。やり辛え。
その後、99年にウーゴ・ソトを破り3階級制覇。そして00年にはまた日本で戸高秀樹を破り4階級制覇達成!その後セレス小林に10回KO負け。5階級を狙い戸高と再戦も判定で戸高に雪辱を許す。その後も戦い続け42歳で引退。
いっぱいお世話になったんだし、もっと日本人はレオさんを評価しません?ねえ。

帝拳の海外強豪選手プロモートのおかげでレベル高い選手が身近に

ガメスが活躍した同じ90年前後から、帝拳ジムが海外有望選手のプロモートを行うようになり、ちょくちょく日本来て試合もしてた。日本のファンはその高度な技術を身近に堪能できたし、一緒に練習する選手たちの向上にも大いに益したはず。その中でも予定通りと言えるくらいきっちり王座に着いたのが、デビッド・グリマンとエロイ・ロハス。グリマンはフライ級王座獲得後、井岡弘樹相手に盤石の8回KO勝ち。エロイ・ロハスはフェザー級王座を獲得後、浅川誠二や平仲信敏相手に防衛を重ねた。
そんな帝拳プロモート選手の中でも、17歳で来日し、日本で生活しながら3階級制覇した名選手がホルヘ・リナレス。

ゴールデンボーイってあだ名がデラホーヤ以外で唯一似合う男

そもそも既に世界獲りそうな中堅。ではなく日本在住でデビューも日本。日本語もペラペラ。もうこれ日本の選手なのよ。国籍はベネズエラでも。閃光のようなハンドスピードと華麗なコンビネーション。そもそも俳優みたいな男前。人気出るなっちゅう方が無理。
そうそう、「あしたのジョー」の実写映画がありましたが、俺はカーロス編までやるならリナレスにやって欲しかったんよ。ベネズエラ出身・スピードスター・イケメン・日本語ペラペラ(いやあれは漫画の都合で…)。ね?いいと思いません?
最初のフェザー級王座挑戦ででオスカー・ラリオスにKO勝ちした時、コーナーに登って「やったーっ!」て叫んだんやで。もうそれ日本人なのよ。この時は誰しもがリナレスの前途は明るく、PFPをどんどん登っていく最強王者になるものと思った。

ん?あれ?打たれ…弱い?

体重苦から階級を上げスーパー・フェザー級でも5回KO勝ちであっさり2階級制覇。
しかし、凱旋試合のような感じで東京でサルガドの挑戦を受けた試合、初回1分13秒KO負け。…長年ボクシング観てる中で5本の指に入る衝撃でした。
気を取り直して3階級制覇に挑むも…終盤アントニオ・デマルコの猛襲にKO負け。再起戦でも2回KO負け…。一回のKO負けで一気に精彩を失うボクサーっているけど、俺たちのリナレスも…。

と思っていた我々を最高なカタチで裏切り不死鳥のごとく復活!2014年12月にWBCライト級王座を獲得し、3階級制覇!その後は海外で強豪相手に次々防衛を果たしていく。

ハイライトはここ!この右ショート!

そして当時PFPトップのワシル・ロマチェンコとの対戦が決まる。王者はリナレスだが、オッズは圧倒的不利。試合もロマのハイテク攻防にポイントを失い続けるも、6回に起死回生の右を叩き込み、ロマからプロ初のダウンを奪う!この瞬間がリナレスを見続けてきてハイライトの瞬間かも。その後は逆襲に会い、10回KO負けするも、この名勝負は今でも目と心に焼き付いている。その後は、デビン・ヘイニーに塩漬されそうになりながら、後半はKO寸前まで追い詰めたり、まだまだ衰えてはいない印象だったが、4連敗して2023年に引退。

悪魔に魅入られた狂気の男

エドウィン・バレロ。生涯戦績27戦全勝全KO。史上ただ一人のパーフェクトレコード王者。もし彼が悲劇的な最期を遂げなければ…。歴史にifはご法度?いやいや夢の対戦が実現しなかったからこそ、その妄想は永遠に我々を熱く語らせるのよ。
元々世界王者候補だったが、バイク事故の影響で脳出血が見られアメリカでライセンスが下りず、日本の帝拳がプロモートするように。
手打ちに見えるのに何故か異様な破壊力のパンチ。いつの間にか相手を袋小路に追い詰めるステップの巧みさ。バーサーカー(狂戦士)としか形容しようがないほどの異常な殺傷本能。リング上の狂戦士はファンにしたら最高のヒーロー。誰も彼のようなボクシングは出来ない。先にも後にも唯一人の個性。現代のミッシングリンク。
ブルースの伝説に、ロバート・ジョンソンは悪魔に魂を売って、音楽の才能を手に入れた。てあるけど、バレロも悪魔と契約して通常の精神と引き換えに…とか(彼の罪をそんな悪魔のせいにしたいわけではなく)。

18連続1回KO勝ちって

デビュー以来連続1ラウンドKOを15回。誰も相手になんないので、「バレロ相手に2回まで持ったら100万円」てなんだか失礼なマッチメイクも行われたが、坂東ヒーロー相手にきっちり1回KO勝ち。でもこれ逃げずに打ち合った坂東の勇気も賞賛して欲しい。
連続1回KO は18回で途切れたものの、06年8月にパナマでビセンテ・モスケラに挑み世界スーパー・フェザー級王座獲。防衛戦で1位にランクされるパッキャオとの対戦もあり得たが実現せず。当時のスター、マルケスやバレラとも実現せず。そりゃ得体の知れない強さのバレロはハイリスク・ローリターン過ぎるもん。
アメリカでのライセンスも獲得、その後も当然のように2階級制覇。これからはバレロの時代、パッキャオ達スターとの夢の対決も見えてきた!?
そんな彼はリングから降りると紳士だし、練習も丁寧に基本を繰り返す真面目さは皆の手本になる。と言われていたが、彼のリング状の狂気は私生活をも蝕んでいたのか。

これ以上の悲劇はない。だから余計に心から消えない

2009年に家庭内暴力で逮捕されたり飲酒運転でも逮捕されたり、少し私生活の乱れが危惧されていた。しかしその後もKO防衛を続けた。2010年3月にも妻を暴行、自身も闇を自覚していたのか精神病院に入院。そして2010年4月。妻を殺害し逮捕。翌日独房で首を吊って自死。彼が犯した罪の大きさに戦慄するが、純粋にボクサーとしての彼が、彼のボクシングが彼永遠に失われた事はやはり悲しい。
ちなみに殺害した妻の弟(バレロの義弟)、がボクサーとして台頭、リオ五輪で銀メダルを獲得している。このニュースがほんの僅かだが、バレロに関しての我々の思い出の後書きとして一条の光を感じさせてくれたような思いがある。

まっだまだ日本人対戦のお馴染みベネズエラボクサーたち

何回も来日し馴染みありすぎて「毎度!いらっしゃい!」て居酒屋が常連さんを迎える気持ちで見てた選手が多いのもベネスエラボクサーあるある。
ヘスス・ロハス(桜井・玉熊・渡久地・飯田・戸高・セレス小林)
ロレンソ・パーラ(坂田・中沼・坂田・坂田)

アレクサンドル・ムニョス(セレス小林・小島・本田・小島・名城・相澤・川嶋・亀田興)ちなみにこのムニョス、2003年にカラカスでジョギング中に強盗に襲われ左膝に銃弾を受け1年2ヶ月のブランクを作っている。治安悪っ!2004年には自宅で強盗に襲われまた膝を負傷。治安悪っ!他にも元2階級制覇王者アントニオ・セルメニョが引退後誘拐され殺害されている。こういうの辛い。
近年ではカルロス・カニサレスが常連さん。田口・小西・木村、そして拳四朗と対戦。拳四朗との試合は王者有利予想の中、日本人無敗の強さを遺憾無く発揮、後一歩まで王者を追い詰めた。

そんなベネズエラの今後

これからも、テクニックに秀でたり、強打に秀でたり、南米特有のやりにくさを持ってたり。そんなベネズエラボクサーとは切磋琢磨しあいましょうね!よろしくね!て思っています


という訳で、それではまた!

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