世界拳闘紀行 第十三回 ドイツ

WORLD BOXING JOURNEY

文:コビトロック
イラスト:kimura

真面目そう、待ち合わせに遅刻しなさそう

第13回ドイツ。ドイツのイメージって?工業国。ドイツ製品は信頼できる。真面目。お堅い国民性。勝手なイメージだけどね。

だから、ボクサーも真面目実直勤勉、基本に忠実、派手な事はしない…ってそれ、塩ボクサー製造国家みたいやん!

ええ、誤解を恐れずに言うと、塩ボクサー大国かも。地味ボクサー大国かも。でも決して弱小国家ではない。鉄壁ディフェンスの強者を次々と生み出した国家でもある!

00年代は女子が盛り上がってた気がするよ

90年台後半から2010年頃まではヨーロッパの女子ボクシングは盛り上がってた。スター性のある選手がどんどんヨーロッパで活躍。その中でもドイツは女子ボクシングのメッカのように盛り上がってた。

実際、イナ・メンツァー、レジーナ・ハルミッヒ、スージー・ケンティアン(14回防衛!)とドイツ人王者はスター性もあったし。

でもいつの間にか以前ほどの盛り上がりは感じないし、現在は男子と同じく女子もアメリカが本場って感じ。(女子は可能性だらけなので、これからもっと盛り上がると思ってます。はい)

結局今でも有名なのはこのレジェンドかも

マックス・シュメリング。長い間ジョー・ルイスの引き立て役、ルイス物語のハイライトとして、ナチス対アメリカ勧善懲悪物語の悪役として歴史に登場しがちだった人物。

1930年ニューヨークでジャック・シャーキーとヘビー級王座決定戦を行うも、ローブローを食らったシュメリングはそのまま試合続行できず、反則勝ちで王者に。ローブローチャンプと言われファンからは認められない不憫な王者に。
ならばとシャーキーと再戦!有利に試合を進めるも疑惑判定で陥落。
その後ナチスが台頭すると、アメリカではナチのイメージとセットにされ、悪役に。そんな中、時期世界王者候補として破竹の快進撃を続ける若きジョー・ルイスの噛ませとして戦うも、何とここでKO勝ち!するとヒトラーからもメッセージ届くわ、ドイツはお祭り。ナチスに国威発揚の政治利用されまくり。

で、ルイスと再戦、そして

で、1938年の第二次大戦直前に今度は王者となったルイスとの再戦。完全にマメリカvsナチスの構図にアメリカ盛り上がりすぎ。異常ムードにびびったシュメリングのセコンドが逃げるほど。試合はシュメリングを研究してきたルイスのKO勝ちに。ここら辺は「独裁に対する自由の勝利!」みたいなストーリーでこすり倒されてきたので割愛。
後に「負けて良かった。勝ってナチスの英雄になって勲章もらってたら戦後、戦争犯罪者だったかも」と述べているし、実はユダヤ人の子供を家に匿っていたり。がっつり反ナチスだったのに、ここは後年も長い事ピックアップされることは少なかった。

色々あったが、ちゃんと引退後成功してます

引退後は事業で成功。コカ・コーラ社の重役にもなります。逆にかつてのライバル、ジョー・ルイスが貧乏で生活困っているのを知って、経済援助を行い、葬儀費用の一部も負担。最後は国や戦争を超えた戦友との友情の勝利。みたいな良い話エンド。

そんなシュメリングの後を継ぐジェントルマン

時代は移り、ナチスの尖兵みたいなイメージから、ナチスに抗ったスポーツマンとしてのイメージも復活してきたシュメリング。いつしか国外に向けた国民の英雄にすらなってきた?

で、当然のように映画化(「ザ・ファイト 拳に込めたプライド」2010年)。

その映画の主演シュメリング役を務めたのがヘンリー・マスケさん(まだ存命だったシュメリングから直々のオファー)。
勿論ただの俳優じゃないぜ。何せソウル五輪で全試合1ポイントも落とさずに金メダル!長身サウスポースタイルから繰り出す右ジャブとクリンチが冴えすぎて、誰もが塩漬け!プロデビュー後は無敗のまま93年にIBFライトヘビー級王者トム・コリンズを漬けて王座獲得、その後も長身のサウスポースタイルから繰り出す右ジャブとクリンチが冴えすぎて、誰もが塩漬け!
気がつけば10度の防衛、11度目の防衛戦でバージル・ヒルに1-2で際どく判定負け。そしてこの1敗であっさり引退。試合前からこの試合で引退するって言ってたしね。気持ちが入っていなかったのかもね。

11年ぶりに復帰してこれ

で、時は流れ11年後に突如復帰。唯一の黒星の相手、バージル・ヒルと再戦、この時ヒルは現役のクルーザー級王。んな無謀な!
しかし、ここでマスケはヒルを塩漬け完封。んな事ある!?で、二度目の引退。一時期ドイツボクシングの顔(統一ドイツのシンボルって側面もあった?)でありテレビ中継は視聴率90%だったとか(本当?)。でも、世界的にはて地味です。ボクシング史に残る地味ツヨ。

引き分けもなく全勝のままで引退した王者を挙げてみろ

皆さん、そう聞かれたらまず誰でも、フロイド・メイウェザー!!て答えますよね。ええ、そうです。正解です。では他には?ロッキー・マルシアノ!そう、レジェンド。正解。アンドレ・ウォード!はい神の子正解!エドウィン・バレロ!悲しいキャリアの断たれ方でしたが正解。ディミトリー・ピログ!そう、彼も怪我が無ければゴロフキンのように偉大な王者になったかも。
他にも複数人いますが、地味だが長期に渡って地味に塩漬けし続けた生涯無敗王者と言えば、我らがスベン・オットケさん!知られていない?知っていても忘れられてる?

オットケはほっとけ?

ジョー小泉もそう言うしかない、鉄壁のディフェンスに圧巻のタッチボクシング!34戦34勝!6KO!!いや、別にKOだけが全てじゃないが、驚きの低さ(ちなみに同じく生涯無敗王者のバレロは27勝27KO)!

ニックネームは「ファントム!」お化けだもん、誰も触れないのよん。地味ツヨ・塩ツヨ製造工場ドイツが生んだ史上最高の(塩)ボクサー!

22度の世界戦で試合で印象に残る試合がないのだが

スーパーミドルという、最も地味な階級(次点はクルーザー。異論は認める)で重ねる防衛は21回。そんなんリング誌のPFPに入って当然のような気がするが、彼も彼の対戦相手にも一人もいません(戦わぬライバルのジョー・カルザゲは2位まで上昇したのにね)。
しかし、7年間も王座に座り続けたのは不断の節制とたゆまぬ努力の積み重ね。ネタ扱いされがちだが(本稿も少ししてると自覚)、偉大な王者である事に変わりはない。

デラの引き立て役じゃないもん!

フェリックス・シュトルム。ああ、はいはい、デラホーヤに史上初の6階級制覇の偉業を達成させた人ね?
そうなんです、そうなんですが、それだけじゃないのよ!12度防衛に2階級制覇!強いんです!デラの試合だけのイメージで語らないで欲しいんですぅ。

アマエリートだし、無敗で王者になってます

本名、アドナン・チャティッチ(フェリックス・シュトルムはリングネームだったのね)。アマ時代はシドニー五輪に出場、3回戦で破れる。122戦113勝という抜群の成績でプロ転向。鉄壁のディフェンスと堅実なジャブ(もうこの言い回し飽きた)をベースに連勝を重ね2003年にWBOミドル級王座獲得。そして初防衛戦でデラホーヤに敗北。でも微妙な判定。地味とスターじゃスターに星付くよね〜と言われたり(因みに筆者はデラの勝ちで問題なかった派)。

ここからがシュトルムの本番

陥落後も勝利を重ね2年後には王座に復帰。でも初防衛戦でハビエル・カスティリェホKO負け。するも再戦でリベンジまた王者に。
ここからコツコツと12度防衛(6度目の防衛では日本の重量級エース佐藤幸治にも圧勝7回TKO勝利)。スーパーミドルも制した。が、キャリア後期には所属プロモーションが崩壊して自分でシュトルムプロモーションを立ち上げたり、対戦相手からグローブすり替えられた疑惑、ドーピング陽性など、リング外の方が色々あった感じだ。

地味だけど他にもいるもん! 現役ヘビー級王者だって!(知ってた?)

ドイツ人王者は地味階級スーパーミドルやクルーザーの地味王者が多い気がする。アルツール・アブラハムなんかは攻防分離し過ぎで面白い王者だったけど。他階級にも粟生に敗れたタイベルトや、近年ではドミニク・ボーゼルだのビンセンツォ・グアルティエリなど、地味な王者を輩出し続けている。ちなみに2024年3月時点でWBAのヘビー級王者がいるんです。
マヌエル・チャーさん。え?!ウシクとフューリーじゃないの?
2017年レギュラー王者になるも(シュメリング以来85年ぶり!)あれやこれやで試合できず21年休養王者→22年休養王座すら剥奪→23年WBAと和解してレギュラー王者に。遂に24年3月に初防衛予定。

て、誰が気にかけてる?このヘビー級王者。地味。どころか誰の眼中にもないような…。

そんな地味塩製造工場の今後

我がドイツボクサーの堅実さ地味さは世界一ィィィッ!!

とドイツ人が自負してるかはさておき、まだまだ欧州の、いや世界ボクシングの渋い脇役国家として今後も渋い玄人受けする選手を輩出し続けてくれるはず。そんなドイツに今後も注目じゃ!


という訳で、それではまた!

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