世界拳闘紀行 第五回 韓国

WORLD BOXING JOURNEY

文:コビトロック
イラスト:kimura

近年エンタメでは韓国パワー凄まじい。ボクシングでは…

 第五回です。さて今回は韓国! やれBTSだイカゲームだ何だで、エンタメで世界を席巻しとるかの国です。アカデミー作品賞やビルボード1位等、今や何で日本とこんなに差が付いちゃったの? てくらい存在感デカい。
 でも…でもですよ! ビフォア90年代からボクシング好きな諸兄にしてみたら、韓国って猛烈ファイターの産出国、80sから90前半の最盛期は世界王者大量生産、中には対日本人用大量破壊兵器? てくらい日本人喰いまくった名王者もいて、頼もし過ぎるにも程があるライバル!だったのが、今や何で日本とこんなに差が付いちゃったの? てくらい存在感が薄い。
※あ、話の便宜上、在日韓国人選手は今回省きます。今後在日韓国人選手だけの回を作っても面白いかも。

日本統治時代から名選手輩出

 そもそも、韓国ボクシングは戦前から盛ん…という言い方が正しいのかどうか。何せ当時は韓国(朝鮮)という国は無く日本植民地時代。ボクシングは既に大人気で寧ろ日本本土より熱く、結果強いボクサーも多く、1938年の全日本選手権では全階級朝鮮人が優勝した事も。ただ国籍は日本人なので、日本代表として戦ったボクサーも多く、アマチュア日本代表チームは全員(監督も)朝鮮人だった事もあるぐらい。プロでは日本王者の徐廷権が「日本人初」の世界ランカーに。
 当時は差別意識+民族意識高揚させぬよう政治的配慮から、朝鮮人選手が日本人選手と戦う時はKO せねば判定盗まれる、状態だったとも言われる。だからボクサータイプではなくファイタータイプが主流になったとも。それでも勝ち抜いた名選手が多かったのだからその実力たるや推して知るべしだ。

そんな背景あるからでしょうが

 戦後、韓国として独立後も引き続きボクシングは人気スポーツに。国が貧しい中、拳2つのみで成り上がれる。そして国民が一つになれる。この辺の感覚は同じく貧しかった戦後日本と似てるかな。
 過去の歴史上の因縁からか、韓国人選手って日本人選手と対戦した時には普段の倍以上の力発揮!?実際本人の意識もそうだし周りからも「日本人にだけは負けるな!」て言われるって直に韓国の方から聞いた。だからほぼほぼ激闘になるしボクシングファンとしてはそういう対抗意識は歓迎よ。
 そういやサッカーとかで時々見られた、激闘に水さすような選手や観客のあからさまな政治主張や人種差別ってボクシングの試合ではあんま記憶にない。皆無じゃないだろうけど比較して少なめ? そもそもがぶん殴るっていう、ある意味感情的で原始的な競技なので、その手のエネルギーも試合に吸収されてる? だからボクシングは健全で健康的だ。などと思う訳ではないが。

戦後韓国ボクシングをざっくりと

 初めてプロ世界王者になったのが金基洙(キム・キス)。1966年に世界Jrミドル王者に。初代王者が軽量級ではなくアジア人からしたら重量級なのも意外。ちなみにこの後、スーパー・ミドル級で朴鍾八(パク・ヂョンパル)、白仁鉄(ペク・インチョル)と日本人未踏のクラスで王者が2人誕生している。韓国人は平均身長も日本人より高いらしいし、確かに知り合いの韓国人はデカい人多い(狭い集計で申し訳ない)。
 洪秀煥(ホン・スファン)はバンタム級とJr.フェザー級を制した韓国初の2階級制覇王者。試合後の電話で「母ちゃん、チャンピオン取ったよ」という言葉は当時の流行語になったらしい。藤猛の「岡山のお婆ちゃん」みたいなもんか?
 その後も、韓国はIBFを早くから承認した事もあり、着実に世界王者を生み出しいく。そんな中、2人のJrフライ級王者が日本人の前に立ちはだかる。

韓国の鷹、張正九!

 韓国ボクシング史上初国際ボクシング名誉の殿堂入りを果たした張正九(チャン・ヂョング)。83年にイラリオ・サパタに3回KO勝ちで王者に。その後は無人の野を行くが如く、当時最多の具志堅の13回を抜き15回の防衛達成。
 野生味溢れる無尽蔵のスタミナ・手数。ザ・プロ叩き上げなスタイルは、ボクシングにおける反骨心を具現化したような魅力が詰まっていた(実際はアマでも相当な実績残してる)。
 しかも王者のまま引退。するものの、多くのボクサー同様ボクシングしか知らない男はベルトは防衛出来てもお金を防衛する術を持たず、カムバック…その後も強敵と戦い続けて二度目の引退。

大橋秀行との2度の名勝負

 「150年に一人の天才」というやり過ぎニックネームで登場した日本の大橋との2度の戦い、特に2戦目は凄かった。3ラウンドに3度のダウンを奪われ瀕死の大橋の起死回生カウンターが張に炸裂! 張危うし! 大橋の述懐によると、このパンチで完全に目が飛んで意識無かったが、それでも前進してきて攻撃を止めなかったという。意識を超えた闘争本能。その後張が盛り返し8回KOで大橋は破れるも、この試合はこの年の年回最高試合に。
 「鷹」がニックネームの張だけど、大橋は「リングに虎と一緒に放り込まれた感じがした」。と語っている。ところで大橋って言葉のチョイスというか言語センス良いよね。自ジム選手のニックネームに「300年に一人」とかではなく「モンスター」と付けてくれるセンスで良かった。そんな張と大橋は今は友達同士で、週一ペースで電話かかってくる仲というのも素敵な話。

夕立パーーーンチ!

 その張を超える連続17度防衛を果たしたのが柳明佑(ユ・ミョンウ)。王者になった時はKOも少なく地味だったが、チャンスになるとソナギパンチ(夕立パンチ)と呼ばれた人間離れの異様なラッシングで次第にKO量産。張と並んで次々日本人挑戦者を屠っていく。
 そんな柳が日本で井岡弘樹相手に18回目の防衛戦を行う事に。実は筆者は当時井岡陣営に関係してたジム練習生だった事もあり、柳応援を隠し会場観戦。柳の調子が少し悪そうにも見えたが、ともかく井岡のジャブがキレキレ。結果は井岡判定勝ち!伝説に勝利で異様な興奮に包まれた会場を今でも思い出す。

個人的こぼれ話

 で、前記の通り一応井岡陣営の端くれの端くれなので、お祭り騒ぎのどさくさに紛れ引き上げる陣営の後ろに付いていったら(駄目です絶対!)、控え室に入る直前に井岡のお兄さんのアノ方に「おのれら何者じゃあっ!」と怒鳴られ、蜘蛛の子を散らすように逃げました。
 その逃げる際に柳陣営にスレ違い「チャンピオン!チャンピオン!」とニコニコしながら連呼しているのを見て、どゆこと?? と思ったが、実はジャッジペーパーの計算ミスでドローと発覚したそうな。(その後、この再計算自体がミスってて井岡勝利確定)。
 後に再戦で復讐の鬼と化し井岡にリベンジ! 生涯敗戦は井岡初戦1回だけでリングを去った。

血の印象が強過ぎて…

 韓国の石の拳こと文成吉(ムン・ソンギル)! アマで世界選手権金?オリンピックベスト8? がにわかに信じ難い無骨なザ・コリアンファイター。バンタム・Jr.バンタムと2階級制覇。その後9度の防衛。もうね、前進前進でバッティングを微塵も恐れず毎試合血ダルマになっていたイメージ。怖いっすよ。でもその命削るファイトに当時心打たれたなぁ。
 アメリカのバンドでSun Kil Moonっているんすけど、当然彼から拝命。ジャンルはスロウ・コアと呼ばれるゆったりテンポで文成吉とイメージ結び付かんけど良いです。因にこのバンド、「アリ・スピンクス2」「サルバドール・サンチェス」「パンチョ・ビラ」「金得九」という曲があります。

そんな韓国ボクシング衰退は何故…

 長らく東アジアの盟主だった韓国も野球やサッカー等、他スポーツの人気向上もあり90年代に入ると徐々に衰退。その凋落の始まりとも言われる事件が84年IBF世界フライ級王者権順天のタイトル戦。権がKO勝ちも、何と挑戦者が偽物で戦績も嘘。まさかの替え玉だった。権も知らなかったそうだが、ボクシングの権威に傷が付き国民の信頼を損ねたダメージは小さくなかったはず。
 そしておそらく決定的だったのが、韓国ボクシングコミッションKBCが体制派と反体制派(反体制派は柳明佑と洪秀煥が代表)に分かれてのドロ沼裁判。まともに運営出来ず資金も底をつき…の惨状に。しょっちゅう我が国のJBCが2つに分かれる危険性と、そうなったら統括団体団体乱立で競技としての求心力失う…という危惧は囁かれて来たが、10年以上前にお隣韓国がまさに近い状態に。今は反体制派が主流で人気を取り戻そうとしているらしいし、女子選手は活躍してる印象はあるけど、まだまだ往年の勢いは取り戻せていない…。

最近はMMAに押され気味?

 一方、新興(ボクシングに比べたら)の総合格闘技は盛んで、世界の総合格闘技団体でも結構韓国選手見かける。やっぱボクシング同様気持ちを前面というか全面に出すタフファイター多い印象。
 そう言えば科学的根拠あんのかないのか知らんけど、韓国人は元々大陸の騎馬民族のDNAが残ってるので、武闘派でタフで精悍な筋肉質男が多いって何かで読んだ事ある。そんなコリアンMMAファイターの活躍見るとどうしてもボクヲタとして一抹どころじゃない寂しさにかられる…。

そうなのサ、やっぱりTシャツを作ってしまったゼ

 ふと張正九のTシャツが欲しくなり、でも欲しいのが売ってないのサ、なら作れば良いんだゼ。の精神で太極旗(韓国国旗)のカラーリングにポップなタイポグラフィと張さんのお顔をトッピングした一品を作成。

世界中で欲しがる人間が自分含め2人くらい。というのがコンセプトの文成吉Tシャツ! 勢い余って綴りの「o」を2つ増量してやったわい。勢い余って実際より心持ち出血量増量してやったわい。一見ゾンビ映画か何か?ていう女子受けゼロな仕上がりに勝手に満足してる次第。

隣人ゆえにコイツらには負けたくないっていうライバルよ、カンバーック!

 やっぱさぁ、日本→世界の間に最後の関門として、めっちゃ強い韓国の東洋王者がいるってのが理想なの! 舞々と書いてチョムチョムと読むような必殺技を繰り出す韓国人がいて欲しいの! 世界王者でも散々日本人倒されたので、アイツだけは日本人が倒さな気が済まねぇっ! て名王者がいて欲しいの!
 だからこそ隣人韓国には、とっとと国内のゴタゴタをスッキリ払拭し(え?JBCも?)、目の上のタンコブとして戻って来て欲しいのであります。
ではまた!

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