世界拳闘紀行 第七回 パナマ

WORLD BOXING JOURNEY

文:コビトロック
イラスト:kimura

世界拳闘紀行 第7回 パナマ

WORLD BOXING JOURNEY

文:コビトロック
イラスト:kimura

パナマの印象ってなんじゃろ?

第七回パナマ。パナマと聞いても寡聞にして筆者にはありきたりな事しか思い浮かばぬ。帽子?運河?コーヒー?パナマゲイシャってコーヒー豆、知った時はなんちゅう名前や!思たが結構値が張る高級な豆ですね。前置きはともかく、パナマっつったら、あの男しかおらんやん。でしょ?
でも初期の名選手を追っかけると、実は日本とも縁が深い名選手を多く輩出しているお国。

名前に国名入ってるって考えたら、凄い

名前に国名入れるのって覚悟いるやんね。まるでボボ・ブラジル?いや彼はアメリカ出身だよ!それはともかく、パナマ最初の世界チャンピオンこそがパナマ・アル・ブラウン。
なんとまぁ、100年前のセバスチャン・フンドラ状態の、バンタム級にして182cmの反則長身!94年Boxrecのバンタム級オールタイムランキングで5位、02年リングマガジンの過去80年の80人の一人にも選ばれている。
1929年に世界王者になった後は世界中を転戦。とくにフランスで人気を博し、本人もパリが気に入ったようで、かのジャン・コクトーと恋人同士だったとか(100年前に同性愛者って色々大変だったろうなぁ)、ココ・シャネルがスポンサーについてたとか、とても華やかな話題の一方、キャリア後期は薬物中毒に苦しんで、コクトーの進めて入院したり、それでもカムバックしたり。
晩年は不遇でニューヨークで亡くなったときは文無しだったとか。

日本人が苦手というかやりにくい典型的な連中?

ちなみに残された動画を観ると1920年代から40年代に活躍した100年前の選手とは思えないくらい、この時点でパナマボクシングが完成しているのが見て取れる。所謂「変則的」「フニャフニャしたやわらかい動き」「捕まえにくいアウトボクサー」「先天性のセンスによるカウンター巧者」。
ボクシングの面白さの一面として、戦い方に地域性や国民性が出るところなのだが、この時点で100年後に通じるものがハッキリ出ているのって興味深い。いやホンマすげーセンス。今の目で観てもカウンターとか天才的。

地味ながら強い王者だったり

パナマ2人目の世界王者が、イスマエル・ラグナさん。この人も端正なボクシングで60年代ライト級の名選手。世界王者としては防衛は1回だけなのでそこまで有名じゃないけど、名王者カルロス・オルチスからタイトル獲ってるし(再戦で負けてラバーマッチでも負けたけど)。
その後王座返り咲きの後は、ガッツ石松に13回KO勝ち。映像を観るとこの選手に13回まで粘るガッツも実は強い。

そして出ました、石の拳

パナマ3人目の世界王者にしてボクシングの歴史上、おそらく10指に入る人気者。それがロベルト・デュラン。今まで出会ったほとんどのボクシングファン、いや全てのボクシングファンが全員デュラン好きでした。それくらい人気者。
もう説明するまでもないけど、ざっくり生い立ちは、スラム街で喧嘩に明け暮れた少年が伝説的トレーナー、レイ・アーセルに見出され才能開花。天性というか路上で鍛えた当て感と避け感で一気に世界王者へ。
ちなみに日本の誇る元Jr.ライト級王者、小林弘をノンタイトル戦で1ラウンドKOで粉砕、引退に追い込んでいる。

勢いがあるとはこういう事。名王者からライト級タイトル奪取

1972年王座挑戦。当時の王者、イギリスのケン・ブキャナンも歴史に残る名王者(後にこの選手相手に王座防衛するガッツも実は強い)。
さしものテクニシャンもデュランの勢い止める事はできず、徐々に押し込まれて行く。今見返したら、結構ブキャナンの攻撃も当たってるのよ、でも攻撃の天才デュラン相手では分が悪い。佐瀬稔がデュランを評して「感情の天才」と言ったが、正にこの選手の魅力を的確に捉えた名フレーズ。自分の心を試合で拳で戦いで完全表現出来る希有な選手。心のファイトで人の心を動かせる天才ファイター。「石の拳」は「意思の拳」でもあると思うんです。
で、13ラウンドでKO勝ち!でも最後はローブローなど曰く付くでもある。

輝き過ぎるにもほどがある。歴史上最強のライト級王者時代

その後は無人の野を行くが如く、10連続KOを含む11連続防衛。78年にはこれまた強豪王者エステバン・デ・ヘヘスをKOで破り、王座統一。
勿論ここで我々日本人としては、ガッツ石松がこのライト級オールタイムPFP時代のデュランに挑んだ試合も見落としてはならない。このデュランに10回まで粘ったのも凄いし、「暑いからもう嫌」と自分から倒れて米倉会長怒られたというのも凄い話。しかしこのデュランとの戦いで逆に(世界はこんなものか。ほなこれから真面目に練習すれば王者なれるっしょ)と思って実際に王者になったガッツ。やっぱり実は強い。

国民の休日、デュランの日

敵がいなくなったデュランは一気に2階級上げ、五輪金メダリストからプロでも世界王者になったスーパースターのシュガー・レイ・レナードに挑む。デュランの映画ではデュランがレナードの奥さんに無礼な事言ったりして、この時点からペースを乱されたのがレナードの敗因。な描かれ方だったけど、試合そのものは教科書的ボクシングのレナードがデュランのインファイトに戸惑って攻略仕切れなかった。て感じで。

で、母国パナマはお祭り状態。そしてこの勝利の日は「デュランの日」として国民の休日に。今でも歴史的勝利の試合後は「もう国民の休日にしようぜ!」とシャレで言いたがるボクシングファンも多いが、ガチで休日に制定。凄いぜデュラン。
でも再戦でレナードの徹底したアウトボクシングに苛立ち「ノ・マス(もうやらない)」と試合放棄で敗戦。このありえない試合放棄すら今からすると魅力のデュランさんなんですよねえ。
ただし、デュランの日は廃止、パナマ国民からしたら休日1日減ってしまう事に…。凄いぜデュラン。

80年代中量級ウォーズ大好きっ子集まれ〜

その後80年代中量級は天の差配か、このデュラン・レナードを含む歴史的な選手が4人集結し、全員が総当たりでぶつかりあった凄過ぎる時代。トーマス・ハーンズ、マービン・ハグラー。この両者にはデュランは負けてます。ハーンズに2回KO負けのシーンは歴史に残る凄まじいノックアウト。KO負けも絵になる。凄いぜデュラン。
でもさぁ、80年代四天王的に言われるけど、デュランは70年代のライト級が全盛期ですぜ。総当たりの勝率は一番低いけどそこ考慮してあげてね!

あれ?謎の来日?まぁ…ねぇ…。

その後、ハーンズをKOしたアイラン・バークレーからタイトル奪取し4階級制覇。この辺も単純な三段論法が通じないボクシングの面白さ。
色々あって2001年まで戦い続けましたとさ。
因に92年には異種格闘技戦(このフレーズに時代感じる)として、藤原組(これもナツい!パンクラス以前)の船木誠勝と対戦。2回にダウン奪うなど、案外ちゃんと仕事してから負けました。ブヨンブヨン体系が正直失笑モノだったけど、それすらカワイク見えるんだもん、凄いぜデュラン、

パナマ・アル・ブラウンの遺伝子続々

頭に初代王者パナマ・アル・ブラウンがパマナボクシングを既に完成させてた。と書いたけど、その遺伝子を受け付いた選手を見て行こかな。パナマ=デュランみたいな印象だが、デュランは寧ろ少数派というが突然変異みたいな選手やね、パナマでは。
エウゼビオ・ペドロサ。70年代後半〜80年代前半にかけてフェザー級歴代最多の19回連続防衛! 19回の防衛にはロイヤル小林とスパイダー根本を下した勝利も含まれる。微妙に時代が被らなかったアルゲリョとと対戦してたらどうなってか今でも妄想中。因に従兄のラファエル・ペドロサもボクサーで具志堅の王座に挑んで判定負けも、2階級上げて世界獲得。そして初防衛戦であの渡辺二郎に王座を明け渡している。

日本ボクシング史上、一番苦手な外国人選手?

イラリオ・サパタ。出ました。一番嫌。こんな背が高くて手足長くて空転させられる選手、嫌。でもだから好き。デュランと同じ街の出身で、そのデュランからグローブを貰ったのがきっかけでボクシングを始めたとか。1980年に日本で中島成雄に挑戦、15回判定勝ちでWBC世界Jr.フライ級王座獲得。その中島との再戦を含む8度の防衛。陥落後、今度は友利正に勝利して再度王座獲得。その後2階級制覇、日本で穂積秀一の挑戦を退け防衛。
日本の不倶戴天の敵。日本が出会ったやりにくかったボクサー歴代1位?今でも京口や拳四朗ならどうサパタと戦うのかしらん?とか思う。

結局今でも

近年では、2階級制覇のセレスティーノ・カバジェロに細野悟が完封負け。ルイス・コンセプションには河野公平が判定負け。更にまさかの内山高志を2タテしたジェスレル・コラレス。初戦は贔屓目もあってアクシデント的KO負けと思いたい!でも再戦は完全に距離を支配しズラし、パナマ特有クニャクニャ&才能カウンターで2-1だったけど完勝。やっぱ苦手?

日本人の敗戦だけ取り上げんなよ

リゴベルト・リアスコは、都合4度日本人選手と拳を交えたが(2勝1敗1分)、日本人絡みではロイヤル小林にKO負けで王座を失った試合が一番有名か。カルロス・ムリーリョに山口圭司は連勝。ロベルト・バスケスには坂田健史はリベンジしたし、負けてばっかじゃない。そんな中、強い印象を残したし、実際強かったのが“亡霊”こと、アンセルノ・モレノ。
だって、亡霊ですぜ。どう考えてもパンチ当たらん感じするやん。(その代わり強打は持っていなそうなニックネーム)。2015年、山中慎介に挑戦する為に来日!これは生でチェミート(亡霊)観なくては!と東京まで遠征して観ました。正直、神の左も亡霊には当たらんだろう。と思いながら(どっち応援かと言うと、心情は5.5-4.5で山中でした)。

亡霊の正体見たり?!

試合は痺れるような間合いの読み合いとフェイントの掛け合いで見応え十分。モレノを堪能。試合は判定へ。正直僅差モレノ勝利?と思ったが1-2で山中勝利。モレノは試合後嘔吐したらしく、決定打は貰ってないように見えたが、神の左はかすめてはいたんだな。モレノも苦しんだんだな。と。
敗戦後のそんな状態にも関わらず、出待ちのファン全員にサインと記念撮影したとか聞いて、亡霊の正体はファン思いの素晴らしい選手なんだと思いました。
で、一年後の再戦、1ラウンド開始直後に違和感。そう、距離が近いのだ、これはモレノさんの距離じゃないでしょ。でも際どい試合では勝利できない敵地、なら自分の距離を捨ててでも勝ちに行く覚悟を感じ、この時点で鳥肌。さらに言うと山中も前戦で勝利したものの悔しい気持ちあったのだろう、距離が近い。前戦とは違うダウン応酬の激戦の末、とても美しいKO負け。胸が一杯になりました。両者にありがとう。

パナマ名物に今後も期待

こうやってざっと見てみると、今後もパナマボクサーは日本人を悩まし続けて、パナマってだけで嫌な予感する〜って思わせ続けて欲しい。
で写真は、いつもTシャツばっか作ってるのでたまにはYシャツを。「石の拳」シャツ。地味にワンポイントのつもりも、デュランの圧が強くて、結構目立つ。
それと、ライト級時代のデュランは超絶イケメン過ぎて絵になり過ぎてありきたりだから、寧ろキャリア晩期のふとっちょデュランのTシャツ。カワイイ〜。

という訳で、それではまた!

タイトルとURLをコピーしました