vol.10 船旅のススメ、海を進め。

旅を始める前に リレーエッセイ第十回  

瀬戸内航路に日が昇る
瀬戸内航路に日が昇る

 船旅はいい! なぜ、良いかと言えば「やる事がないからだ(笑)」。なぜ、やる事がないのが良いのか? 
それは簡単な理由、旅先の目的地までゆっくりできるから。旅の前日には、だいたい仕事を片付ける事に忙殺され、それが終り深夜に旅の荷造り、気が付けば外は明るくなってきている・・・。と、まぁこんな悪循環だからなのです(苦笑)。
 もちろん、汽車旅の旅情感、飛行機の利便性は捨てがたいですけど、今回の話は「船」です! と言うのも先日、「日本クルーズ&フェリー学会」さんのご好意で「名門大洋フェリー・きょうと乗船会(大阪・南港〜福岡・新門司)」にビジターとして参加したからです(笑)。

大阪南港フェリーターミナル
大阪南港フェリーターミナルと名門大洋フェリー・きょうと

名門大洋フェリー
今回の乗船チケットと名門大洋フェリーのパンフレット

 旅に出れば「船」を利用する事が多い、それは今回乗船した大きなフェリーから、離島と離島を繋ぐ高速船や木っ端のような漁船まで多種多様。そんな中で「船旅」が『いいな』と思った切っ掛けが、本島と離島間の連絡船に乗った時の話なのです。
 季節は春、卒業旅行のシーズン。私は石垣島から与那国島行き「フェリーよなぐに」で約4時間の船旅を楽しんでいた。船が出航して数時間、石垣島のエメラルドグリーンの海から濃紺の色に変りだすころ、テーブルマウンテンのような与那国島が現れた。外洋の中にぽっかり浮かぶ島だ。
 入り江に向かい、着岸するのは「久部良港」、この時に目に飛び込んできたのは大勢の子供と大人が『◯◯先生、ようこそ◯◯小学校へ』の横断幕を持ち、楽器を演奏する子供たちの姿だった。「あぁ、この船のどこかに赴任(小学校)してくる先生がいるんだ」と、下船後もめずらしいので様子を見ていたのだ。
 そして、3日後の石垣島行き(帰路)に乗船する時に、あの一団がまた居たのだ〜! 前回とは違う、新たな横断幕を広げた。そこには『◯◯先生、ありがとうございました! ◯◯先輩、がんばれ〜 ファイト!!』、そして船と陸を結ぶ色とりどりの紙テープ。汽笛が空気を揺らし、ドラの音が天を響かす、それはまるで映画のワンシーンが切り取られたような光景だった。この時から「船旅」に興味を持ち、好きになる切っ掛けになった。

名門大洋フェリー
名門大洋フェリー
夕暮れ時、出航が近い「きょうと」。
名門大洋フェリー
船内のエントランスには「ウェルカムボード」。
ファーストルームの個室客室。大きくはないが洗面もある。

 他にも「船旅」の思い出は色々ある、学生時代に田舎に帰るため乗船したときの話だ。航路はまさしく、今回の「きょうと」と同じ瀬戸内航路だった。当時、苦学学生(笑)だった私は、アルバイトを終え出航時間ギリギリに飛び乗った。当然、食べるものも買えないままにだ。
 船に乗ってまずやらなければならない事は、二等船室での場所の確保だ! だが、乗船が遅れたので、それぞれの家族や一団の隙間に頭を下げ下げ陣取らして頂くはめになった・・・。
 次にすることは、腹を満たすこと(笑)。近くにいた、おばさんに荷物番をお願いしてスナックコーナー(自販機コーナー)へ向かうのだが・・・。カップヌードルが全て売り切れ?! 絶望的に自分の陣地に戻るしかない。少しの間、放心状態で過ごしていたら、先ほど荷物をお願いしたおばさんが話かけてきた。『これ、お食べ。あまりものだけど』、差しだされたものは「おにぎり」だった。おばさんが言うには、『「お父さんがやれって言ったのよ」と「あの子、腹が減っとる顔をしとる」て』笑いながら。
 あのこと、あの味は今でも、忘れられない思い出だ。

名門大洋フェリー 食事
ビュフェスタイルの食事会場、メニューも多く満足できますよ〜。
名門大洋フェリー 食事
これが私の夜ご飯です。蒸したてのシュウマイが美味しかった!
名門大洋フェリー 食事
朝ご飯はこんな感じ、旅の朝はしっかりと食べなくちゃダメなのです。

 そして、夜に出航する船旅の醍醐味は「夜空」と「日の出」! 当然、晴れていなければいけないが。深夜の海には灯りがなく真っ暗、届く光といえば月灯りか、岸近くなら町や工場地帯の灯り、たまに灯台の光線が廻ってくるだけだ。圧倒的に星空を見るにはいい環境が揃っている。それに日の出だ、漆黒の闇の海に光が当りだす様はいつも感動する。夜の大海を航行する不安と孤独か
ら、世界に色を取り戻してくれる瞬間に立ち会える、生きていることに感謝できる瞬間でもある(笑)。
 船旅の時には少し眠いかもしれないけど、是非、体験してください。おススメです。

明石大橋
神戸の夜景が過ぎれば、明石大橋が迫る〜
次に瀬戸大橋と水島工業地帯
来島海峡第二大橋
来島海峡第二大橋をくぐって暫くすれば愛媛県伊方町あたり(下)
名門大洋フェリー
名門大洋フェリー
もう、言うことは何もないご来光だ。

 先日、参加させて頂いた「名門大洋フェリー・きょうと乗船会」でも貴重な体験をさせて頂いた。なんと乗船中に2回もの船内ツアーが実施された、「出航前のブリッジ(艦橋)ツアー」と「着岸後のエンジンルームツアー」興味深い話も聞くことができました。
 ブリッジでは、目に付いたのが「海図とコンパス」「双眼鏡」等、デジタル制御で動かしているはずなのに、やはり安心・安全を守るには人の目視が必要と言うことなのだろう。あっ、人だけではなかったです(笑)、神棚には宗像三神の御札が祀られていました。

名門大洋フェリー
双眼鏡が船乗りぽくっていいですね、その向こうには多肉植物の鉢植があった。
名門大洋フェリー
操作盤を説明してくれるキャプテン(上)
海図を広げている机、奥の棚にはコンパスがあった。

 エンジンルームツアーではエンジニアさんから面白い話が聞けた、「航行中に小さな機械トラブルは常にあり、その都度トラブルを回避(修理)する」と。大きなエンジンの直ぐ側には大小様々なスパナや工具が置かれていた。
 この話を聞いた時、19世紀アメリカ東海岸・捕鯨基地港ニューベッドフォードから鯨油を集める捕鯨船の話を思い出した。鯨油を船一杯にするまで航海が続く捕鯨船には、搾った鯨油を貯蔵するために大量の木樽が必要。木樽のままだと場所を取るので「樽を一度バラして」木材として保管し、必要となれば船員が組み立てるのですが、長い航海のため船の破損も多く、航行中にこの木材を使い補修をしたそうです。いやはや、今も昔も船乗りさんには感心してしまいます。

名門大洋フェリー
車で言えば巨大なV12エンジンに見えた〜〜(上)
修理するための工具が整然と並んでいる(下)

 「船旅」の楽しさが伝わりましたか(笑)。興味を持たれたなら、次の旅には船を利用してください、時間に追われずにゆっくりのんびりと旅を楽しんでください。それに各フェリー会社さんは、多彩なサービスでみなさまの乗船をお待ちしていますよ。
 最後に貴重な体験をさせて頂いた「日本クルーズ&フェリー学会」さんに感謝です、ありがとうございました。

新門司港
新門司港
新門司港に着岸。ターミナルの外から「きょうと」の船影。

日本クルーズ&フェリー学会

クルーズ&フェリー学会
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