世界拳闘紀行 第八回 ガーナ

WORLD BOXING JOURNEY

アズマー・ネルソン アイク・クォーティ

文:コビトロック
イラスト:kimura

ガーナの印象と言いますとね

第8回ガーナ。そりゃあーた、チョコレートよ。しかしカカオの生産世界一はコートジボワールだったりする。国連の元事務局長のアナンさんがガーナ。んで我が国の野口英世が黄熱病研究するも黄熱病で亡くなったのもガーナ。ちなみにガーナには野口英世の研究室が残されて遺品も展示されている。さらに野口英世ストリートという通りもある。おっと話が初っ端から脱線。
ガーナ、実は空手が盛んとも聞きましたが裏取れてない(取れよ)、んでいつからプロボクシングが存在したのかは未調べなんですが(調べろよ)、アマチュアボクシングは50年代の時点で強かった。

ボクシングとの関わりは

五輪でもまず、60年ローマで銀のクレメント・クォーティ(LW級)がいる。90年代に活躍したアイクの兄だそうで…て、いくつ離れてんの?え?27人兄弟!?
64年の東京で銅のエディ・ブレイ(LW級)、72年ミュンヘンで銅のプリンス・アマーティ(M級)などなど。08年北京にメダルは獲ってないけどプリンス・オクトパス・ザニー(蛸王子?)という選手はプロ転向後、2022年12月現在23勝19KO無敗!SB〜Fe級の注目株?(でももう37歳)
2020東京ではサミュエル・タキーがFe級が銅メダル。てか過去から現在までの五輪におけるガーナの獲得メダル総数5個のうち4個がボクシング。やっぱ伝統的に強い。
そうそう、日本が誇るアマボクサー岡澤セオンは父がガーナ人らしい。日本とも縁がございますな。

どんなファイトスタイルのボクサーが多いのかしら

アマが強いっちゅう事は基本に忠実な攻防一体堅実なボクシングの選手が多い。確かにそう…。でも、躍動する黒いダイアモンドのような筋肉!獣のようなスピードとパワー!予想外の角度からの強打!無尽蔵のスタミナとタフネス!というような身体能力に特化したオバケみたいな常識外の男が現れる土地。てイメージもあって…。未知の世界から知られざる強豪が!みたいな。これアフリカ差別?いや単に情報が入りにくいから急に強い選手出て来る印象ないっすか?

日本人とも関わりある世界王者

んなガーナ初のプロ世界王者はデビッド・コティ。75年にかのルーベン・オリバレスを判定で破りWBCフェザー級王者に。2度の防衛に成功していますが、2度とも日本人相手に防衛、フリッパー上原とはガーナで。シゲ福山に防衛した時は来日して後楽園ホールで。サッカー仕込みのスピーディなボクシングで1966年から1989年まで長いキャリアを戦いぬいた。

てか俺のガーナのイメージこの人

ガーナ史上最高のボクサー。ではなく、アフリカンボクサーの最高傑作とすら賞賛されるのが、アズマー・ネルソン。
ネルソンが世界の表舞台に登場したのは、かのサルバドール・サンチェスの防衛戦の相手として。アマエリートで無敗で強いとは聞いていたが、なんせ絶頂期のサンチェスが負けるわきゃない!と当時の人は思ったかどうか(いやきっと思ったはず)。1982年7月21日に行われた試合はネルソンがテクニックと圧力で前半リード!やば!強い!しかしサンチェスは後半ジワジワペースをたぐり寄せ15回で壮絶なKOでネルソンを降す!負けたもののこれで評価うなぎ登り。
そしてこれが3週間後に事故死したサンチェスのラストファイトに。それもあり伝説の試合として刻印された激闘。

80年代のアズマーさん。ヤバいよね

フェザーにおけるサンチェスの後継者となったかどうかは分からないが、その後は快進撃。84年にこれまたレジェンドのウィルフレド・ゴメスに11回KO価値で王座獲得!アマ仕込みのテクニックに裏打ちされた野性味溢れるファイトで連戦連勝!そして88年にはJrライト級を制して二階級制覇!誰もが心のPFPランクにアズマさんを入れていたんではなかろうか。

90年代のアズマーさん。ヤバいよね

しかぁし、3階級制覇を狙って90年にパーネル・ウィテカーに挑んだ時はレジェンド塩将軍の前に漬けられ…いやこれが意外にネルソンのハイペース攻勢でアクション多い好試合に。試合はウィテカーの判定勝利も、これネルソンのおかげで面白い試合でしたぞ。
その後保持したままのJrライト級王座の防衛でオーストラリアの英雄ジェフ・フェネクと引き分けたものの、再戦でKO!まだまだ健在じゃい!94年にジェシー・ジェームズ・レイハに王座を渡したものの、この時既に36歳。当時としては高齢だし強豪との歴戦でさすが疲労がきてたかも。
しかしその後も王座を再戴冠して96年にレイハにリベンジし王座防衛した時は38歳。繰り返すが当時としては超高齢。

ガーナのロールモデル、それがアズマーさん

若い頃、その凶暴なファイトスタイルから「アフリカの野生児」と呼ばれ恐れられていたが、長〜いキャリアの中で元々あったテクニックを更に磨き、インテリジェンス溢れる試合運びを見せるようになり、いつの間にか「プロフェッサー」と180度逆のニックネームが付いていた。野生児から教授やで!何か、理想的なキャリアじゃない?
そんなアズマーさんは現役当時、儲けた金で何台も高級車を所有したり貴金属ジャラジャラの豪遊することなく、質素で規則正しい生活&練習を続け、だから長いキャリアを全うできた言われている。そんな人間性もガーナの国民から尊賞を受ける理由。
現在は政治家であり、アズマー・ネルソン財団を設立し、スポーツや教育を通して恵まれない若者を支援。

固いガードに破壊的なジャブ。と言えばこの人よ

はてさて、60年ローマ五輪銀のクレメント・クォーティの弟が90年代に大活躍します。27人兄弟、一番の上のお兄さんと一番下の弟くらいの感じなのかな。
それが、アイク“バズーカ”クォーティ!そのガードはあらゆる攻撃を無効化する硬度を誇り、そのジャブはいかなるガードもぶち壊す破壊力を有していた。
ね、皆好きよねクォーティの事。何でやろう、ガードとジャブの人。以上。ていう説明のしやすさかな。世界王者なんやもん実際は細かいテクニックとかいっぱいあるねんけど、ボクシングファンですら印象に残ってんのはそこ。日本で無敵の吉野弘幸をボコボコにした朴政吾がジャブだけでボコボコにされたのは印象的やったなぁ。

アイク・クォーティ
主役じゃないが熱い時代の忘れられない選手の一人、そして永遠の名勝負

96年にクリサント・エスパーニャからWBA世界ウェルター級タイトルを奪って以降、7連続防衛(5KO)、そして99年、時のスーパースターのオスカー・デラ・ホーヤと大激闘の名勝負!これ人生涯ベストに上げる人もいるくらいの試合。ダウン応酬のクロスゲームの末、最終回デラホーヤにダウン奪われ判定負け。でもこれ永遠のマスターピースよ。この一戦でジャブとガードのあの人。から歴史にその名を刻んだと思う。記憶に残る名選手。

ウェルター級にはやっぱ憧れます

クォーティ後も名選手出ました。同じウェルター級で2000年代に活躍したのがジョジュア・クロッティ。90年代に引き続きウェルター級界隈は熱い(考えたら80年代も、憧れるなぁ。いつか日本人王者も…)。ガーナの至宝と呼ばれるクロッティはこの時代の強豪達と戦いまくったんじゃないですかね?クォーティは王者になっても中々ビッグファイトに辿り着けなかったが、クロッティは初挑戦がマルガリート(判定負け)、コラレス(判定勝ち)、ジュダーさん(判定勝ち)、コット(判定負け)、とどめにパッキャオ(判定負け)。で、次世代スーパースターのカネロとやる予定もカネロの怪我で中止。
頑丈な体で固いパンチの選手でした。

相手を選ばず戦うガーナ選手のイメージ

近年では、これまた強豪と戦い続けたアルフレッド・コティ。マルケス、フレイタス、サリド、オルティス。何か引き立てイメージあるけど、凄い拳歴。
ナナ・コナドゥは2階級制覇王者としてより、日本人と縁の深いヒルベルト・ローマン、ラバナレス、ウィラポンに勝利した事で変に印象に残ってる選手。特にウィラポンには2回でKO勝ちしてるんすよねえ。あ、文成吉には2回でKO負けしてる。

ガーナ、筋肉の塊の身体能オバケのイメージを継承してるのは

ガーナの選手に勝手に筋肉質で身体能力が高いってイメージを抱いている。アズマー・ネルソンのイメージを自分が引き摺りすぎ?あ、ジョセフ・アグベコも筋肉質でニックネーム「キングコング」でした。
ともかく勝手なそのイメージを今に継承するのが、アイザック・ドグボエ。ニックネームのブレイブ・サン、ロイヤル・ストームってカッコイイな。身長158cmながら、ゴムまりのようなキビキビした動きから強打を繰り出し、ジェシー・マグダレノから11回KOでスーパー・バンタム級王座奪取。初防衛戦では日本のいぶし銀、大竹秀典を初回KOで屠る!スゲー選手出て来た!てテンション上がったが、その次の防衛戦でエマヌエル・ナバレッテに破れてスター候補の座をあっという間に明け渡したのであった。その後はフェザー級で頑張っています。158cmでフェザー級って貴重、頑張って欲しい。

アグベコ
アグベコしゃん、今でもマレスには勝ってるって思ってる人、多いですよね。
今後のガーナはどうでしょう

きっと今後も伝統的に層の厚いアマチュア上がりの技術のしっかりした、でもそれより才能の煌めきを先に感じさせる選手が次々出てくるんでしょう。期待できそう。
ただ、「注目!こいつがガーナのプロスペクト!」とはなかなか日本のそこそこ程度のヲタクには情報キャッチしにくいんす。アメリカやヨーロッパを主戦場にし王座獲得または獲得直前になるまで。そこは俺の掘る努力不足か。そうですね、ええ。

という訳で、それではまた!

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