WORLD BOXING JOURNEY
文:コビトロック
イラスト:kimura
来た、ついにこの国に手を出す時が!
第9回メキシコ。もはや多くの説明を必要としない、言わずと知れたボクシング超大国!どうですか皆さん?ざっくり好きなボクサーを挙げていってくださいよ。大概のファンはベスト5にメキシカン入るでしょ?(適当)。最高級ブランド国や!
余りも膨大な名選手を輩出し過ぎた国なので、手をつける気にならないと言うか畏れ多いというか、どこから始めていいやら…。
本気でかかるとメキシコだけで10回分くらい軽く費やしちゃうので、絞りに絞って独断と偏見で筆者が好きな選手だけピックアップで「〜70年代」「80〜90年代」「00〜10年代」の3回に分けるねん。それでええねん。
マチズモとは男らしさを誇る文化!
まず、ざっくりメキシコのボクシングの歴史を遡ると…。もともとメキシコにも男は戦って強くてなんぼや!という男らしさを誇る“マチズモ”が美徳してあり、根付いているので(近年は政治思想に利用されてきた事や、フェミニズム・ジェンダー論等の観点から、マチズモの客観的考察も進んでいる)その証明にうってつけのボクシングは魚に水の相性でこの民族に浸透。1910年代以降アメリカでボクシングがビッグビジネスになるのと歩みを同じくして元々の国民性に加え一攫千金を夢見た男が続々と虜になったそうな。
キッド・アステカ!ルチャのヒーローみたいなリングネーム
メキシコ初の世界王者は1933年にJrウェルター級王座に就いたバトリング・ショウ(本名ホセ・ペレス・フローレス)。その後もバンタム級で米倉健志と対戦した“殺人パンチャー”ホセ・ベセラ(1959年王者)など続々王者が誕生する。
そんな中、王者ではないけど上記の選手よりもやけに名を残してるのはキッド・アステカ(本名はルイス・パラモ)。ルチャの選手みたいなかっこいいリングネーム。ともかくメキシコの国内ウェルター級王者でレバーブローの名手だった。そう、この時点で「メキシカン=レバーブロー」の構図が成り立っているというか伝統芸なのだ。彼は1932〜1961年にかけて255試合!!を戦い抜いた。まさにマチズモの権化。
過去のバンタムで怪物って言ったらこの人だったような気がする
我々日本人にとって“バンタム級”って特別じゃないですか?あしたのジョーの影響もある?古くはファイティング原田が黄金のバンタムのエデル・ジョフレを破って2階級制覇したバンタム級。圧倒的カリスマで90年代を駆け抜けた辰吉もバンタムに拘った。また絶対王者として長谷川穂積が君臨したのも、神の左で山中慎介がKO量産したのも、そしてモンスター井上尚弥が4団体統一したのも…。でも半世紀前の怪物的バンタムと言えば、ルーベン・オリバレスですよね!
顔からして強打者顔してるやん。あの顔でパンチ弱い訳がない
1965年にプロデビューしいきなり24連続KO。世界初挑戦時の戦績が51勝49KO1分!凄いけど、当時はどんだけ勝たな世界に挑戦出来へんねん!て思う。でも…最初のタイトル獲った時がピークと言われてたりするくらい、それ以降は(複数階級制覇や王座奪還するものの)圧倒的じゃなくなっていく。酒が大好きだったとか言うし、天才にありがちなムラがありすぎるタイプ?初戴冠時のインパクト大き過ぎて過大評価レジェンド?などと言ってしまったら失礼過ぎるけどそれを差し引いてもブンブンフックを振り回す攻撃的ボクシングは魅力。
日本人なら一度は観ておけ名勝負と言えば
桜井孝雄や牛若丸原田など日本人選手との対戦も多いが、今でも語り継がれる名勝負と言えば、日本で金沢和良との防衛戦。オリバレスの強打暴風に曝され続ける金沢の鬼気迫る粘りが人間として異常なレベルの異常な試合。金沢が優勢なラウンドもあり大激闘。この試合はオリバレスの強さより金沢のタフネスで歴史に残る名勝負になったって感じですが。でもオリバレスは後のインタビューで金沢の事を、タフネスよりフットワークとディフェンスが素晴らしかったって挙げてますね。
そんなオリバレス、キャリア後期にはアレクシス・アルゲリョに13回KO負けしてるけど、その辺の次のスターにバトンを渡す感じも個人的にはグっときてしまう。
ゼーーーーーーーーット!!
このバンタム級はメキシカン好きにも特別な階級。それは先のオリバレスに続いて伝説的メキシカン王者を輩出し続けた階級だから。とか勝手に思っているんですよね。その中でも誰か一人挙げろぃ!と言われたら、そりゃ、KOアーティストことカルロス・サラテですやん。で、もう一人挙げろと言われたらそのライバルのアルフォンソ・サモラですやん。二人の頭文字を取って“Zボーイズ”だゼーーーット!
二人の背景、ストーリー込みで人々は熱狂(勿論凄い実力があるの大前提)
元は同じジムで同じクーヨ・エルナンデス師匠について学んだ盟友同士の二人。しかし金で師匠と揉めてサモラは移籍。以降両者はもの凄い罵り合いを繰り広げる。だったら拳で遺恨に決着付けようじゃん!そしてWBC王者サラテ対WBA王者サモラとしてリングで相見えるのである(当時メキシコでの人気がサモラが上だったそう)!ドラマやん!この時の二人の戦績がサラテ(45勝44KO)、サモラ(29勝29KO)。漫画やん!
試合は両者ガンガン手を出す好勝負。なれど徐々にサラテの技術が上回りサラテペースに。そして4回KOで完全決着!
それはそうと、この試合開始早々、山下清みたいなランニング姿の男が乱入する珍事があった。危うく歴史的決戦が台無しになるところやったで。
一回の敗北で別人になるのもまた天才ボクサーあるある
敗北したサモラはこの日を境に一気に下り坂。二度と輝きは取り戻せなかった。一方サラテは連続KOを9まで伸ばし、途中、17連続KO防衛のウィルフレド・ゴメスに挑戦(5回TKO負け)、最後はこれまた後輩のルペ・ピントールに王座を奪われる。後にジェフ・フェネクとダニエル・サラゴサちゃんに破れているが、プロで敗北はこの4敗だけ。しかも全員名選手。何とも凄い拳歴だわ。
世代じゃないけど昔からサラテっ子だったんです
中学生の頃リング・ジャパンで購入したカルロスサラテKO集。テープが擦り切れるくらい(おっとゼーーット世代には理解できない表現)観たな。なんつうか子供の頃に観たあしたのジョーの最強王者ホセ・メンドーサにそっくりなのよ。高度な攻防技術に一撃必倒の強打を針の穴ほどのピンポイントに叩き込むちょびヒゲ姿!そうか!ホセのモデルはサラテなのか!と思ったが、実際はあしたのジョーの連載終了後にサラテは登場した選手。つまりサラテのモデルがホセ?
それはともかく、彼らに強く惹かれるオイラはこのZボーイズのTシャツを作ったよ!何だかホール&オーツのバッタもん男性デュオみたいなダサさがお気に入り。
ピピピピピピノ。これまた強打者顔しとるのぅ
ホセ・クエバス。いやピピノ・クエバスと言った方が通りは良いかも知れぬ。「ピピノ」て野菜のキュウリて意味らしいが(何故それがあだ名?)、何だか語感っちゅうか響きがkawaii。手の平にのる小動物ぽいというか、プリキュアの妖精で「◯◯ピノ〜」て喋るキャラとかでおりそう。もしくは一口サイズのアイス(それはピノ)。
でもその語感とは真逆な残忍な必殺豪腕を持つ男、それがピピノ・クエバス。
14歳でデビュー(早っ)、12戦目までは7勝5敗のうだつの上がらぬ普通の戦績。しかしそこから覚醒!1976年にアンヘル・エスパダを2回KO王者になった時には18歳!そこからまぁ、日本の天才辻本章次を初防衛でKOしたのを皮切りに11連続防衛の10KO! 天性の強打者!何人もの顎の骨を砕いたのであだ名は「ジョー・クラッシャー」
80年代中量級ビッグ4のうち2人に絡むも
あのレナードもタイトル初挑戦がクエバスなのはリスキーだからと避けてベニテスにしたそうな(いやいやベニテスも歴史的名選手やで!)。
しかし、この男も後のスーパースター、トーマス・ハーンズ相手の防衛戦で2回KO負け、クエバスのトレーナーが試合後に残した「体重だけでなく体格でも階級分けて欲しいっすわ」という言葉も有名。
それ以降はパッとせず。83年にはデュランに4回TKO負け。
そんなピピノも思わずTシャツにしてしまいました。ビッグ4にはなれなかったけど、忘れ得ぬ拳豪を胸に刻んで。などと申しており。
メキシコについて語り出したらきりがない
いや〜駄目だ。あの選手のあの選手も語ってない。一応文字数の制限。みたいな縛りを何となく設けてるんです。場所を借りて細々と連載してる以上。てか一度に駄文まき散らし過ぎてもアレだし。
で、次回は80〜90年代に活躍したメキシカンにスポットを勝手に当てて勝手に語ろうかな。と
という訳で、それではまた!