旅を始める前に リレーエッセイ第十五回<前編>

時空を越えて、今現在も繋がる大和心
赤木翁にお願いしていた『還暦前、写真家の「写して候・寄って候」天皇御陵踏破の旅』の旅を終えての寄稿だが、編集部では1ヶ月待ち、2ヶ月待ち、3ヶ月が過ぎた。痺れを切らした小生は、翁に電話連絡を入れた、すると「もう、歳だから長文を書くのが煩わしい。だから対談か何かで誰かに書き起こして貰えないのかな~」と少し半ギレ気味に言われた。
ここで言い返しても始まらない「おっしゃる通りです、では、対談形式でまとめましょうね。」と優しく慈愛に満ち溢れた笑顔で受諾した。後日、一席を設けることにした。
編 ご無沙汰しています、元気そうでなりよりです。天皇陵踏破、おめでとうございます! まずは踏破を祝って乾杯を。酒をこよなく愛している翁は、今でもよく呑んでいるのですか(笑)?
翁 家ではまぁまぁ呑んでいるね、外では昔みたいに記憶を無くしたりする飲み方はしなくなったよ(苦笑)。
編 それで思い出したのが企画時の仮タイトル、覚えてますか? 『還暦前、写真家の「写して候・酔って候」天皇御陵踏破の旅』だったんですよね(笑)。この『酔って候』が嫌だと言って「寄って候」になったんですよ。
翁 そうだったかな(笑)。
編 「写して候・酔って候」って良かったんですけどね。司馬遼太郎さん著書、山内容堂が主役の『酔って候』から名付けたんですよ。なんだか頑固さが容堂公と重なって。昔話はさて置き、本題に入りましょう。あっ、呑むピッチが早いですよ。
まず最初に「昭和天皇」までの歴代124代の天皇陵を巡り終わった感想は?
翁 宮内庁管轄の1都2府5県に渡る御陵を旅してきたけど、宮内庁の整備は当然なのだけれど。地域の方たちが有志で、毎日、御陵の周りを掃き清めていたりお花を備えたりする姿を見かけるとちょっと感動したね。
何百年も前の天皇との繋がりを大切にしていて、そこには日常があるんだよね、日常が。そんな一場面に出会うと、何千年と悠久の流れの中での「一二六代・今上天皇」の令和の御代を生きていると実感できるんだ。過去から今、そして未来へと現在進行形中て感じをね。

下・人の生活圏と共存している「四九代・光仁天皇陵」

下・地元の方々が大切にお祀りしている香川の「七五代・崇徳天皇陵」

下・都市のビルの谷間に息づく「九四代・後二条天皇陵」
編 そんな出会いの中で印象に残った天皇陵をいくつかあげて貰えますか。ベスト3とか言えば「不敬」だと言われそうなので(笑)、幾つでもいいですよ。
翁 順位を付けるのは確かに「不敬」に当たるね(笑)。そうだな「黎明期」から順次挙げると奈良県御所市にある「六代・孝安天皇」の「玉手丘上陵」だね。「欠史八代」といわれる天皇だが、御陵の拝所は立派に整備させているんだ。集落を抜け拝所へと向かう坂道が辛いことをよく覚えているよ、小山の中腹くらいに御陵があって集落を見守っている感じがいい。それと、拝所からの眺望が「葛城山」と「金剛山」とこれまた良いんだよ。


翁 次に思い出すのが、奈良県桜井市にある「飛鳥後期」の天皇「三四代・舒明天皇」の「押坂内陵」だね。ここも坂道がきつかったんだ(苦笑)、バス停の「忍坂」から拝所へ向かう道が、その名の通り忍びながら登る坂なんだよ。御陵拝所が山の中腹に張り付くような場所にあるしね。
編 山城じゃなく山墓がお好きなんですね(笑)。
翁 不敬者だな、御陵を墓と呼ぶなんて。まぁ、いいよ(笑)。
だけどね、この御陵が浮かんだのは坂だけじゃないんだ、「陵形」が珍しかったからなんだ。「上円下方」と言ってね、台形状の「方形壇」の上に「八角形」の墳丘をのせている、言わば「上八角下方墳」なんだよ。
編 その珍しい「上円下方墳」て、国内では何基ほど確認されているのでしょうか?
翁 御陵としては、近現在の「明治天皇・伏見桃山陵」「大正天皇・多摩陵」「昭和天皇・武蔵野陵」がこの形状で造営されている。あと、「三八代・天智天皇」の「御廟野古墳」とこの「押坂内陵」くらいだと思う。
誰が埋葬者か分からない古墳で、確か六例位しか確認されていない、極めて稀な陵墓形状なんだよ。



編 二つの御陵の立地を見たら、集落を見下ろす小山に陵墓がある。まるで守り神のような位置づけに感じますよね。確かに過去と現在が繋がっているような、納得です。
では、その他の御陵で何処かありますか?
翁 ベタなんだけど、「おっ!」と不敬なことを言ってしまった。
先ほども陵名が出た、近現在の「明治天皇・伏見桃山陵」だな。この御陵は圧巻と言うしかないほどの広さと美しさを兼ね揃えている。
武家から王家に主権を取り戻した、近代日本の初代天皇と言っても過言ではないと思う。それほど荘厳に造営されている陵墓だね。とにかく参拝者も多く、ある意味、華やかな開けた御陵と感じました。
編 私も明治天皇陵には参拝したことがあります、ここもすごい大階段がありますよね。
翁 あるある(笑)、途中途中に3回くらい休憩を挟んで登ったことを思い出した。



ショート対談のつもりで始めたのだが、翁の話が尽きない。話している間に次から次と思い出すようだ(笑)。もうろくしてないことが喜ばしく思う、長くなるようなので急遽、前後編にすることにした。
話しながらでもお酒をよく呑む・・・、だから「酔って候」の方がいいと思うのだけれど。