ソノひびヨリ 第二一話〈後編〉
岡山県・倉敷市 『師は敷きのべ、その教えは倉へ』

倉敷市・朝の美観地区「中橋」より
倉敷総鎮守の女神からの贈りもの

 新児島館を出ると、すでに陽は西に傾いていた。秋の斜光は美しい、なら高台に昇るかと新児島館前の道を進み、倉敷総鎮守「阿智神社」に向かう石階段を昇り始めた。この神社は、鶴形山の山頂に鎮座、航海の安全を司る「宗像三女神」を主祭神としてお祀りする1700年を超える由緒正しき神社なのです。門前には、神域に入るための清めの手水舎には、コスモスと彼岸花が生けられている!? 最近は花手水というらしいが、珍しい光景に、さすがは三女神をお祀りしている神社だと感心する。すると境内から雅楽(笙・しょう)が聞こえてきた、清めた体で門をくぐると拝殿向かい神楽殿で、秋の大祭に向けた神楽の稽古をしている。

 稽古を暫く眺め、西日に照らされる倉敷の街並を俯瞰「なんだか、良い旅だなぁ~」と、時計を見ればそろそろ師との待ち合わせの時間が近づいてきた。

「阿智神社」に向かう石階段より、振り返れば「新児島館」が見える。
三女神からの贈りもの。その1、手水舎に生けたる野花。
その2、神楽の舞い(稽古ですが・笑)。
その3、天候にめぐまれた倉敷の眺望。
「早起きには三文以上のトクがある!」と信じている。

 朝6時4分倉敷市日の出。今日も好天ぽい、早朝の美観地区散策に向かうとする。駅前のホテルから直ぐのBIOS ARCADE(センター街)を経由して「えびす通り商店街」アーケード街を通ってのルートにした。商店街は朝なので当然シャッター街、昼の状況が少し気になる・・・、新型コロナの影響で全国の商店街は大きなダメージを受けている。観光地の倉敷もかなりキツいのだろうか、水際のコロナ規制も緩和されたことだからインバウンド客が戻って来ることを祈るしかない。

 アーケードを抜けると昨日お詣りした「阿智神社」に向かう参道がある、まだ陽が当たるまで時間がありそうだ。そのまま道なりに進むと、この再会の旅に尽力してくださった「ギャラリーメリーノ」さんがあった(この日はお休み)、深くお辞儀をして先に進む。

アーケードを抜け、本通り商店街に入ると朝の日常が見えてくる。

 新児島館を右に曲がり、「今橋」から美観地区のメインストリートに到着。倉敷川沿いに良い撮影ポイントを決めるため一周することにした。「中橋」を通り南端の「高砂橋」まで行き、「今橋」まで戻った、その間にすれ違う人は居ない、この風景(空気感)を独り占めできる悦びは大きい。

 一周した結果、対象物のメインは朝日に輝く白い木造建築の「倉敷館(ビジターセンター)」にすることにした。

「中橋」の前に建つ「倉敷館」、少しずつ陽が当たってきた。

 対象物は決まった、次にアングル探しに「中橋」から「高砂橋」の倉敷川東岸を歩きファインダーを覗いた。聞こえてくる音は、川のコイが活動し出した水の音だけ、そんな中でポイントを決め三脚を立た。対象物に陽が回るまで、もう暫く時間がかかる。座って待っているのも勿体ない、誰もいない時間を楽しむため先ほど歩いた道を再度歩くことにした。

撮影ポイントは「倉紡製品原綿積み降ろし場跡」。直ぐ横の通りに走る光で影の記念撮影。
「倉敷館」に朝日が当たってきた、あと15分くらいだなぁ。
そろそろご近所さんの散歩時間かな。「おはようございます」「今日もいい天気ですね」。

 対岸の西岸を歩いていると朝の散歩をしている翁と出合う、不思議なもので旅先では自然に挨拶ができるものだ。さわやかな気持ちでポイントに戻り、腰を下ろして時を待つだけだ。こんな時に考えることは、対象物の前に「何か、あればいいなぁ」などと強欲な感情がムクムクと沸き出してしまう(苦笑)。物を作る人間はこんなものなのですか? また、師に聞いてみよう。

 そうすると中橋からスケッチブックを持ち対岸を散策? している人が来た、どうやら絵を描くポイントを探しているようだ。願えば叶う(笑)、倉敷館の前でスケッチを始めてくれた! 陽も廻りちょうどいいタイミング、あとは「神が与えし風景」を切り取るだけだ。

 時間を見れば7時45分、ここから先の風景は光の加減で普通(順光)になっていく、そろそろお暇しよう。

1時間30分で切り取った風景だ、私だけの風景。
観光日和、普通に倉敷美観地区を楽しんでみる

 ホテルに戻り、朝食を頂いたのちに早めのチェックアウト。日も昇り晴天を確認、こんな日には普通の観光もいいと思い再度美観地区「倉敷館」に向かう。この「倉敷館」は、1917年に倉敷町役場として建てられた洋風木造建築(国登録有形文化財)。現在はビジターセンター(観光案内所)として活用されていて、水面の高さから美観地区を楽しめる「くらしき川舟流し」のチケットもここで販売している(大人 500円)。そして「多目的トイレ」や「おむつ交換場所」が完備されているうえ、2階には倉敷川を見渡せる「無料休憩所」がある。

 ここで舟のチケットを購入し、しばらく時間待ち、向かいに乗舟場があるので乗り遅れる心配もない。

倉敷館・2階にある無料休憩所。ダレも居ないと思っていたのだけれど、先客が寝転んでいてビックリした!
窓からは向かいの「くらしき川舟流し」乗舟場が見える。

 さぁ、時間がきました約20分ほどの舟旅を楽しもう! 朝とは違う目線で街並を見れば、また新鮮に感じれる。コースは「中橋」横から「高砂橋」まで行きUターン、「中橋」をくぐって大原美術館前の「今橋」まで行き、そこでまたUターンして「中橋」横の乗舟場に戻る。美観地区のメインストリートのど真ん中から景色を楽しむことができ、所用時間も手頃でリーズナブルな価格がいい!! これはおススメの観光です。

 ゆるやかに進む舟でこの旅のことを考える、非礼なる20年もの空白を師は情を用いて敷きつめてくれた。学生時代もそうだった、少しへそ曲がりな私に自然な形で諭してくれたり、いつもお腹を空かせていた私を食事に連れて行ってくれた(今では問題かも・笑)。それは、56歳になった今でも私の大きな財産なのです、感謝しかありません。

「ありがとうございます」、師とは幾つになろうとも尊いものだと思う。

 11月には「ギャラリーメリーノ」さんで個展を開催する予定と聞いた、その日の再訪を楽しみにこの旅を終えよう。

「高砂橋」前で行きUターン、「中橋」をくぐって「今橋」へ
軽トラがある日常感が好きだ。
倉敷館の前にコカコーラ、紅白のコントラストがよく似合う。次の旅の始まりに縁起がいい(笑)。

大原美術館・新児島館から阿智神社

竹久夢二ショップ ギャラリー・メリーノ
倉敷市(岡山県)で主に竹久夢二の戦後からのメリーノコレクションを販売・展示しています。 他にはこだわりの座布団、きものお誂え、美術、工芸作家の作品などを取り扱っています。 また、ギャラリースペースの貸出も行っています。
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