世界拳闘紀行 第十回 メキシコ 第二夜(〜90年代)

WORLD BOXING JOURNEY

文:コビトロック
イラスト:kimura

自分の青春と被るから思い入れ強めなんですよね

第10回メキシコ第二夜。前回は70年代までって括りでしたが、今回は80〜90年代。筆者がボクシングに夢中になった、というか実際にボクシングジムに通ってたボクサーだった(アマ数戦で引退したけど)時期に重なるから、どうしても思い入れ深すぎるんですわ。いや今までも思い入れだけの駄文ゆえいつもと同じだけどね!

永遠のサルバドール・サンチェスについて

90年初頭、まだ現役バリバリのアズマー・ネルソンを好きになって調べると、ん?最初の挑戦でKO負け!?サンチェスって?しかも王者のまま事故死!大場政夫やん!

さっそくリングジャパンでVHS購入!「永遠のサルバドール・サンチェス」てタイトルでしたな。観まくったが、実は彼の凄さって何故か少し分かりにくかった(自分の見識の低さもある)。普通のランカーに変に善戦を許したり、かと思えば超絶強豪にワンサイド勝ち。強打もカウンターも技術も戦術もスタミナもタフネスも高い水準だけど、どれかが飛び抜けている訳ではない。いや、それらを全て平然と実行・完遂するから凄さが目立たない?野球で言う名選手にファインプレーなし。みたいな?

あの次代のこの辺の階級では最強。決まり。

前回で取り上げたカルロス・サラテ。歴史に残る名ボクサー。そんな彼をKOしたウィルフレッド・ゴメスは17連続KO防衛のお化け。歴史に残る名ボクサー。そんな彼を一方的に叩きのめしたサンチェス。サラテ<ゴメス<サンチェス。サンチェス優勝!

この試合、初回にいきなりゴメスからダウンを奪う。その後も淡々とサンチェスペースで進み(ゴメス相手に淡々と自分のペースで進めるのも凄い)、8回に一方的に連打を浴びせて仕留める。つ、つええ〜。

で、この後に次代のスター王者となる若きアズマーさんと激闘の末にKO。その後は階級上げてアルゲリョと戦う予定もあったとか。観たかった…

そして彼は永遠になった

彼は元々、医師を目指していたエリートだったとか(はじめの一歩でありましたが、人体の急所とダメージを冷静に医師の視点で見れるのも武器の一つ?)。引退後は医者を目指す予定だったという。

でも彼は王者のまま、おそらく選手としてピーク、完成に至る前に天に召された。よってファンは失われたサンチェスの完成系を勝手に妄想しては永遠に満たされない思いを募らせている。

そんな彼をTシャツにしない訳にはいきますまい!

彼をTシャツにしようと思い立つ人間は世界中にごまんといるだろうけど(いや少数派か?)、あの特徴的天然アフロヘアーは外せないですよね!という訳でキャラクター化しつつも、アフロはしっかり再現した一品でやんすよ!

ところで彼の甥がサンチェスのコスプレみたいな格好で数年前に戦っていたのを覚えているが、ほんのり話題になっただけで消えた?実力の世界。

オールタイムメキシカンP4P?

フリオ・セサール・チャベス。どうですか?この名前の神々しさ!彼のファンだからそう思っちゃうだけか?J(ジーザス)C(クライスト)スーパースター!てそれ神の子やん。ろくブルで原付に「チャベス号」て名付けられてたから、ボクシングファン以外も名前は知っていたりする。それくらいお偉大な方。先にサンチェスで述べた「名選手にファインプレーなし」理論。このチャベスにもあてはまると思うんよな。常に強い。常に明白に勝つ。いやもう強過ぎて地味に映るもん。

89連勝って

デビューから無敗で89連勝3階級制覇。はい、もうこの時点で神。んで相手も錚々たる面々よ。中でもメルドリック・テーラーとの試合は相手のスピードに翻弄されて劣勢のまま最終回2分58秒で逆転KO勝ち!漫画ならあり得なさ過ぎて冷める展開!ちなみにポイントはリードしていたテーラーの方が顔はボコボコだったのも印象的。生涯116戦 108勝 87KO 6敗2分。このレベルの選手でこの試合数って、もう出て来ないかもね。

終わらせ屋さん

1990年にこの日本で最初のタイトルを獲得した事が、寧ろ日本人の誇りになってるボクサーがおります。勿論リカルド“フィニート”ロペス!

当時を振り返ると、最初から王者の大橋危うし!て報道されてたもん。とは言うものの、勝つんじゃね?程度だったのだが、試合が始まるやいなや、(ヤバ…モノが違う)てTVの前で思った。でも2回に大橋の右カウンターが決まる!今振り返るとあそこまで綺麗にカウンター貰うロペスもレアだ。その後、打たれて逆に火が点いたのかロペス猛攻!5回KOで大橋散る…。

ちなみに後年大橋会長の談話で、国歌が流れているときにロペスは試合が恐くて泣いてたとか泣いていないとか。

本当はあの時、ロペスはヤバいから別の挑戦者候補も選べたらしいのだが、ロペスを選んでくれて大橋会長ありがとう。あの試合は日本のファンの誇りです。

老け顔?でも実際ベテランの技巧と奥深さを教えてくれた

もう一人、90年代には日本にも縁の深い忘れられない拳豪が。皆大好きダニエル・サラゴサちゃん!いや、今なら大好きって言えるけど、当時は仇敵よ、ホンマ。まず、ルックス(失礼!)もファイトスタイルも全然スタイリッシュじゃない!強くなさそう。勝てそう。

畑中清詞の初防衛戦の相手に選ばれたときも、防衛固い。て雰囲気あったもん。試合は、あの非スタイリッシュでスピードも強打もないのに何故かラウンドが進む毎にサラゴサペースになり、終わりはサラゴサ勝利。何故だか強いオッサン(当時33才は大ベテラン)

個人的人生最大のアイドルを2回も退けやがんの

その後王座陥落後、3度世界挑戦するも実らず終わった選手感漂うなか、エクトール・サンチェス相手に2-1の判定勝ちで3度目の王座獲得!そして日本で辰吉丈一郎の挑戦を受ける事なったたときも、辰吉の王座奪取固い。て雰囲気あったもん。

しかし試合は、あの非スタイリッシュでスピードも強打もないのに何故かラウンドが進む毎にサラゴサペースになり、終わりはサラゴサ勝利。何故だか強いオッサン(当時38才は超大ベテラン)

翌年も来日して原田剛志に圧勝。

その翌年も来日し辰吉と再戦。流石にファンもサラゴサちゃんの強さが身に沁みてたけど、それでも辰吉は再戦に強いから!て雰囲気あったもん。試合は、あの非スタイリッシュでスピードも…以下略…終わりはサラゴサ勝利。やっぱり強いオッサン(当時というか今でも39才は超大ベテラン)

結果、サラゴサちゃんの虜

実はモスクワ五輪のメキシコ代表でベスト8まで行ったアマエリートだとか、弁護士を目指していたとか、名匠ナチョ・ベリスタインが育てた最初のプロ王者だとか。そうそう、カルロス・サラテの最後の対戦相手だとか。自分の最後の相手は次世代スターのエリック・モラレスだったとか。色々興味は尽きんけど、何よりボクシングの奥深さを体現した、よりボクシングを好きにさせてくれたサラゴサちゃんが大好きっす。

そんな彼もTシャツにしちゃったよ!フリーザみたいに時期により変化するサラゴサちゃんの風貌を一枚に集約!(左:中期、中:前期、右:後期)ヅラゴサとか言っちゃ駄目よ!

あと一人だけ挙げさせてください

ビクトル・ラバナレス。もうね。1991年9月17日の大阪城ホールを忘れません。人生における全生観戦史で、この試合を超える(下回る?)お通夜雰囲気はありません。それくらいカリスマ辰吉の勝利以外あり得ないと誰もが思ってたのよ。で、出だしは良かったが、回を重ねる毎にスピードも強打もあるように見えないラバナレスペースに…はっ!この点はサラゴサちゃんに通じる部分。で9ラウンドの滅多打ちの中、吉井会長が投げた白いタオルがリングに舞ったのである。あの後、駅に向かう列が皆が黙りこくって俯いている風景は凄かったなぁ。

(しかしこの敗戦すら辰吉物語の序章に過ぎなかったが、それはまた別の話)

再戦で辰吉勝利も自分にとっては1991.9.17だけで殿堂入りメキシンカンなのです。

やっぱメキシコについて語り出したらきりがない

いや〜駄目だ。今回もあの選手もあの選手も語ってない。で、次回はメヒコ編最終夜00〜10年代を好き勝手に語ろう。
という訳で、それではまた!

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