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新型コロナが流行る前、例年一〇月から年明け二月までは繁忙期で、ほぼ、休み無く仕事に忙殺される生活を数十年続けている。無論、この時期の旅は御法度だ! が、この年の十二月は前半に、一週間ほど空きができた。この時期、旅に出られるチャンスは、そうそう来ないだろう。「よし! 旅に出よう」さてどうするか? 寒くなってきたから南国がいいなぁ・・・よし、あの人に会いに行こうと!
月曜日の朝、一泊二日分の簡単な荷物を背負って、高速バス大阪梅田ターミナルへ向かう。目的地は南国土佐・高知。あの人とは土佐が生んだ、幕末の志士『坂本龍馬』だ。
坂本龍馬との出逢いは、今から四半世紀以上前、ワシ(自分自身のこと)が中学生の時だった。当時からバカなくせに、ひょんな事で図書委員長になっちまった(まぁ、当時から本は好きだった)。中三のワシは、ご多分に洩れず、進路について悩んでいた。担任や親が勧める普通科高校と、担任や親にも言っていない(進学前例がない)美術系の高校、どちらに進学するべきか誰にも言えず、十五歳のバカはバカなりにモヤモヤする生活を送っていた。
ある日の放課後、委員会があるでもなく、図書館でボサッと本棚を見ていた。後ろに人の気配を感じ振り向くと、図書委員会責任者の先生が立っていた。「今日はどうした?」と彼から話しかけてきた。ほとんど話しをした覚えの無い先生だった、だが、話していると何故か、悩んでいた事を打ち明けたのだ。
担当学年も違い、接点がない人だからこそ、気安く話せたと、今なら思える。話しを聞き終えると、先生が一冊の本を持ってきてくれた、それが司馬遼太郎『竜馬がゆく』だった。西日に染まる、図書館での一幕だった。
話を元に戻そう。朝七時前、出発した高速バスは、昼過ぎに高知駅前に到着した。まずは、竜馬さんにご挨拶がてら桂浜に向かう。高知駅前から桂浜にはバスが便利なのだが、どうしても『とさ電(路面電車)』に乗りたくなり『桟橋車庫前電停』まで行き、バスに乗り継ぎ桂浜へ(面倒クセ〜)。とさ電を使う方はくれぐれも終点一駅前の『桟橋車庫前電停』で降りるように。(桂浜行きのバス停が目の前にあるからだ。当時だけどな・笑)。繋がりがうまく行き、約一時間で到着した。
バスを降りれば、太平洋が駐車場越しに望める、思わず足を止め「あぁ、海は気持ちがいいなぁ」。いやいや、ぼやぼやせずに、竜馬さんに挨拶だ。松林を抜けると、身長約五メートル(台座を入れると全長約一三メートル)の竜馬さん像が、はるか太平洋の彼方を見つめて立っている。その横には二〇一〇年大河ドラマ決定を祝して、竜馬さんの目線で太平洋を眺められる『特別展望櫓』が設置されていた。展望櫓に登ると、真横に竜馬さんの顔だ。「ご無沙汰しています」「来とったがか、見て見いーや。土佐の海はしょうえいろう。なんぼ、見ても飽き。」そんな言葉が聞こえて来る。太平洋の風を受け、黙って櫓の上で五年ぶりの再会を楽しんでいた。
桟橋車庫前電停
桂浜ルート